僕らは仲間を失う
失うは言葉が悪いかもしれないが
夏を越えれば6人チームを離れる
この大学の特殊なところだ
みんな海を渡る
1年ほど海外へ行くようだ
さすが外国語大学
監督としての僕はなにを憂う?
戦力ダウン?
チームの作り直し作業?
違うな
"寂しい"
これだけだ
僕はただ寂しい
彼らに面と向かってでもきっと言える
寂しいなって
だから敢えて文章にして
この寂しさを文字にして
彼らのこれからに期待して
この気持ちを花束にして
彼らに贈りたい
ただ7/29のゲームで前期が終わり
ここで抜けていくのは3人の選手だ
彼らのことを少し書いていく
固有名詞は出さない
わかっちゃうと恥ずかしいからね
1人目は頑固者だ
こんな書き出しにすれば怒られるかもしれない
彼から見た僕はどう映っているのか?
なぜ大人のくせにこんなにもできないのか?
そんな風に思われてるんじゃないかって
不安になるときもあるくらい
彼は僕から見てもしっかりしてる
サッカー部員としては数奇な道のりだったろう
スタッフで入り、選手に転向
ピッチの外の仕事とピッチ内の仕事の
両輪をぶん回す彼に頭が上がらない
正直彼がいなくなった後が不安だ
彼は僕にできないことができる人間だ
一つ一つの物事にこだわり
曲がったことを嫌う
おい!俺の真逆やん!!
きっと部員からの彼のイメージは
ピッチ外の仕事もきっちりこなす人
みたいな部分が強い
ただね、彼は選手としての成長が
なにより凄かったことを
監督としての僕は知っている
プレシーズンの12分間走は
1ヶ月で500mくらい伸びた
彼の努力の賜物だ
だけど悔しい思いもたくさんあったろう
これは言ったら怒るんだろうけど
悔し涙は何回もあるし
スタメン落ちして沈みまくったこともある
スタメン落ちの日に2人で
アウェイの会場まで歩いた時は
ごめんねって思ったよ本当に
けど今はこいつをお手本にしろって
伝えられるようになってきた
いい選手だと思うよ本当にさ
留学やめてもいいんだぜ!
彼とは監督公募の面談からの仲だ
僕を選んでくれた彼に
僕はなにか返せただろうか。
次は2人目の話だ
2人目はやたら変なやつだ
っていうかこのチームに合流する前
事前に聞いてたメンバーに
こんなやつはいなかったはずだ!
どうやら彼は去年の途中で失踪したらしい
やっぱり変なやつだ
とびきり変なやつだ
失踪から帰ってくるのを
新体制開始時期にしたかったようで
僕の新体制のスタートには
彼の帰還をまず許すのか許さないのか?
戻すにしてもどういう対応をするのか?
一番最初にしてはなかなかかったるい仕事だ
それを持ってきてくれたのが彼だ
トラブルメーカーってのはこういうやつを指す
なんか大体文句言ってる気がする
なんかミーハーみたいのが嫌いそうだ
基本的にスカしてるし
泥臭い奴が嫌いなんだろう
多分俺のことも嫌いなんだと思う
そんなやつだけど
足攣るまで走るんだよ
自分の限界までがんばっちゃうんだなー
『動き過ぎるな!』
これが彼へのお決まりのコーチングだった
サッカーで手抜いてるとこは見なかったなー
足速いしな
サッカー下手だけど
それでもどこまでもがんばれるやつ
不思議なんだよねなんか
そのキャラでそんながんばんなって
思っちゃったりするもんで
かっこいいギャップだよね
あと、足速い
あの日この部活に戻って正解でしたか?
最後の3人目は
俺がこのチームで1番初めに直接話した選手
監督決めるデモ練習の日、1番早く来た選手
俺にとってはちょっと思い入れの強い彼だ
これも怒られるかもしれないけど
彼は精神的にまだ大人じゃない笑
それは大学生だから当然だし
彼は嫌がるだろうけど、
俺は彼のそこを愛らしく思ってる
悔しい時は誰が見てもわかるように態度に出る
うまくいってない時はプレーに出る
納得いってない時は納得してない顔をする
でも、どんな時も彼は少し時間が経つと
『あの時よくなかったです、ごめんなさい』
って言ってくる
だからそこからはいつも
どうすればもっと良くなるかなって
2人で考える
もはやこれはルーティンだ
どこまでも素直でまっすぐで
一生懸命サッカーに向き合う彼のことが
俺は大好きだ
一緒にたくさん仕事もした
YouTubeもやったし、インスタの投稿も考えた
いつだってポジティブな言葉で
嫌がることなんてなかった。
いいですね!おもしろかったです!
笑顔でそう言う彼の顔は脳裏に焼き付いている
サッカーも一緒だ
常に一生懸命、うまくなりたい、勝ちたい
それをいつも感じてる
そんな彼を見ていると
1人のサッカー指導者として
このチームの監督として
彼に最高の記憶を与えたいと思ってしまうんだ
彼がプレシーズンで決めた後の顔を忘れないし
勝った後の嬉しそうな顔は忘れない
そんな顔を
リーグ戦で、公式戦という
もっと最高の顔をできるだろう場所で
させてえなぁ。
今年それができるのは
7/29の次の試合が最後だ
俺のできる全てを出すよ
みんなの最高の笑顔を作るために
最高の顔で海外行かせるためにね
今までで1番勝ちにこだわるよ
だからお前ら3人
最高のパフォーマンスしろよ
これがまだ半年も時間を共にしていない
どこから来たのかもよくわからない
流れ者監督から見た選手たちだ
自分が彼らになにをしてあげたわけでもないし
なにか意味を見出せる存在でもない
そんな大したことない自分が
監督って立場を職権濫用して
彼ら3人に最後に贈る一輪の言葉は
『また一緒にサッカーしよう』
きっとこれだけでいい
この花を枯らさないで持って帰ってきてくれ
じゃあ待ってるね!
マルコ
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